航海士は旅にでる

新しい旅人の在り方『航海士×旅』を提唱する男

船乗りと自殺について【仕事・辞めたい・ストレス】

離職率の高い仕事

一般的に船員は離職率の高い仕事だと言われている。

なぜ離職率がこんなにも高いのかと言うと、海技教育機構のデータによれば、1番多い転職理由に『人間関係がうまくいかなかった』が挙げられる。

目指す人達にとっては周知の事実で私もこの事を理解してこの道に進んだ。

初め、私は人間関係について悩む事はないだろうと感じていた。

なぜなら今までの人生で人と揉めるようなことは少なかったし、寮生活や世界一周でのゲストハウスを通じて共同生活がどういうものか、ある程度理解していて自分がどの位適性があるか把握していたからだ。

しかし、その思い上がった自信はすぐに崩れ去った。

孤立

ある船では孤立して頭が狂いそうだった。

船という閉鎖された環境で職場の人しか話し相手はいない

だけど、職場の人とのコミュニケーションといえば無視か罵倒であった。

他愛ない雑談もなく、無視と罵倒だけの生活をすると思考がめちゃくちゃになって自分が壊れていくのがわかる。

船員の5割以上が50歳であり、歳が近い人が居なかったのも孤立した原因の1つかもしれない。(日本内航海運組合総連合会調べ)

皆が談笑している居住スペースでも、ムカつくから向こうへ行けと言われる。

そうすると、居住区にも居られなくなり自然とその場に居づらくなるのである。

仕方ないので外へ出て船尾の方に出てロープワークの練習をする。人がいない船尾が唯一の落ち着ける場所だった。

実はかつて、この船尾にずっといる私以外の船員さんが居た。その時は入社したばかりでどうして他の船員さんと交流しないのかと疑問に思っていたが、今になってみると痛いほど気持ちがわかる。

その彼がどうなったのかと言うと、他の船員さんに馬鹿にされながらも働いていたが、最後は仕事でミスをしてしまい、次の日に船を降ろされクビになった。

未来の自分を見ているようで辛かった。

(船の世界では今日からクビといわれて 、船を降ろされるのも珍しくはない。能力がないと生き残れない厳しい世界である。)

海を眺めていると

船員養成校で自殺・失踪 7月に3人、練習船で訓練中: 日本経済新聞

ここに船員養成校で3人が自殺、失踪したという記事がある。私は彼らの気持ちを少しだけ理解できるような気がする。

船尾にいるとふと海に飛び込みたくなる時がある。

別に死にたい訳ではない。追い詰められ、居場所がなくなり、逃げ出したくなっただけなのだ。

ただ、船には逃げ道がない。常に海を囲まれているからだ。当たり前のことで頭では理解できても、どうしてもここから離れたいと思った時に海に身投げしたい気持ちになるのだ。

私と船員学校の生徒さんの違いは、海に身投げすることを踏みとどまったか、踏みとどまっていないかの違いだけなのである。