船乗りを辞めたい人達に伝えたいことがある【仕事・辞めたい】
息子が船辞めました
当たり前のように暴力
何も知らないで入ってきたお前が悪い
船には昔からのルールがある
ここは奴隷船なの?
私の子どもは使い捨てか?
(とあるツイートを身バレしないように改変して引用しました。)
偶然、TLで以前の働いていた業界に対する悲痛な思いが流れてきた。私も船乗りを辞めた身として痛いほど共感できる部分が多々ある。
船を辞めたその後もSNSを通してこの業界を覗いていたのだが、
船乗りの若者が労働環境の不満を訴え、消えていく。そして、先輩船乗りは『またか…』と言い新人を見送る。
(今回のツイートでもまたか…という思いがあった。)
そのような出来事を幾度も目の当たりにしてきた。
その都度、この業界は耐え難い現状にあると痛感してしまう。
きっとこのエントリを読んでる人も船を辞めたか、辞めたいと願う人が多いだろう。
『船を降りたいと苦しんでる船乗り』
『船を去った後も自分自身に悩む人たち』
そんな方々にどうしても伝えたいことがあって、今回のエントリを書かせて頂きました。
(現役船乗りの方へ)
もし、現役船乗りの方がこれを読んでいるのなら『辞めた若造が偉そうに語るな』、『船の世界舐めんじゃねぇ』と私に対して不快感を催すかも知れません。あらかじめご了承下さい。
自分を否定しないで欲しい
船乗りたるもの、漢たるもの弱音を吐くな!
船乗りとしてもがき苦しんでいる君たちは、この仕事に誇りを持ち、弱音を吐く暇があるなら仕事を覚えようと前向きに取り組んでいるだろう。
だが、皆も知っての通り『海の世界は』厳しい。
船内という閉鎖的な環境で外部との接触は絶たれ、孤立する。無視や暴言の日々は猛毒のように身体を蝕み、気付けばどん底まで精神、身体を壊していく。
他の船員の方と仲良くすればいいのではないか?と外様の人たちは思うだろう。
しかし、船内には『船員高齢化による価値観の壁』、『高ストレスな職場での人間関係』など新人船乗りが超えないといけない"逃げ場のない"多くの障壁が存在する。
”生涯を通しほぼ海の上で生きてきた人たちと衣食住を共にし、共同生活することの難しさ"、"過酷な仕事のため睡眠不足で船内がピリついた雰囲気の中で新人が働くことの辛さ"は想像を絶するものがある。
もちろん全ての船乗りがこのような事態になるとは限らない。
だが、決して珍しい状況ではないだろう。
そして、『船乗りたるもの、漢たるもの弱音を吐くな!』と教えられ続けてきた若い船乗りは限界まで耐え抜いてきたある日、ポキっと心が折れてしまう。
船乗り、漢失格だなと感じ、辞めたのが悔しくて、腹が立って、自分のことが嫌いになるハズだ。
でも、決して自分を否定しないで欲しい。
ダイバーシティ(多様性)
ここで勘違いして欲しくないのは、私のように船の世界がダメだった人もいれば、ちゃんと適応できる人たちも一定数存在するということだ。
それはひとえに『人間関係』が上手くいった人達である。
この世界を去る大きな要因である『人間関係』を乗り越えさえすれば、船の世界で生き残る確率が大幅に上がる。
恥ずかしながら私は人間関係に躓いてしまった。
理由は船の上だけに存在する『価値観』や『常識』が私の想像に絶するものであったからだ。私が今まで経験して来なかった"それ"は船員の方と私が過ごしてきた環境の違いから来ていたのかもしれない。
船員(船員というと主語が大きいが私が会ってきた)方は中学からすぐに船の世界に入り、生き残ってきた年配の方が多かった。それに対し私は、学生経験を経てこの船の世界に入った。
船の世界に入るには、漁師上がりだったり、水産高校出身だったり限られている。
一般大学から船に来たという経歴は他の船員さんからすると、まるで自分達の常識の外からやって来た『異物』のように思えたに違いない。どこの船でも大卒が何故この世界に入ってきたのかと理由を聞かれた。
だからこそ、過ごしてきた経歴からここまで価値観の違いが露になって、コミュニケーションが取れなくなる事に驚いた。
船員さんの話す内容は『酒、タバコ、女、博打、喧嘩自慢』というものだった。振る舞い方や態度も今まで私が出会ってきた人達とは一線を画してきた。
今まで経験してきたこととの差異が、物理的にも精神的にも閉鎖的な空間という生活と相まって特にそう感じたのかもしれない。
『酒、タバコ、女、博打、喧嘩自慢』というものは、世間では決していいイメージがないが、高ストレスな環境下に身を投じている船乗りにとっては大切な息抜きである。それ自体を批判するつもりは毛頭もない。
ただ合わなかっただけなのだ。
環境の違いからか、今まで私が出会ってきた人達と違いどのように接していいかわからず辛かった。
共通の話題、価値観が存在しない。
これらを乗り越えて人間関係を良くする、社会性や人間性が私にはなかった。
そのためか船内生活では浮いていた。自分の居場所がここではないように感じた。
世の中には色々な人々が存在していて、相性が合わない人達との共同生活の難しさを社会に出て初めて直面した。
棲み分け
私が辞職を決意した要因の1つに以下の言葉がある。
酒・タバコ飲み、話すことといえば女、博打、喧嘩自慢、ライトやナイフやスパイキの自慢。面白い話は同じこと何回も話すし何回も初めてのように聞く。
自分含めてそういう人が多いのも事実だけど、なにかこう、船員にしか無いような心意気というか男気というか、絆、粋、そういうのがあると思うんだ。
内航船業界で影響力のある人物が私に対して言及した呟きだ。
世の中には、この価値観を大切に想っている方もいる。だが、私はこの価値観に居心地の悪さがあった。
大半の船乗りがそうではないが、こういう雰囲気があるのは事実である。
特に商船大学と言ったエリートではなく、乗船履歴が浅く、無資格、内航船の私はしばらくはこのような環境にあたることが多いだろう。
私はこの雰囲気がダメだった。船の生活に適応できなかったのだ。私が未熟で社会性がないのが事実大きな原因である。
しかし、世の中には船乗り以外の仕事が沢山あるのも事実だし、仕事によっては業界の特色があり雰囲気が違うのもまた事実だ。
船を去った後は、派遣の仕事をした。定職に比べたら給料も低いし、安定はしていないが人間関係は楽だ。そして、業界によって雰囲気というものは大きく異なることを知った。
船を去った時は、ダメなやつだと自己否定ばかりしていたけど、ただ相性が悪かっただけだと気がついたんだ。
だから、少し苦手な価値観の中で心が折れただけで絶望しないでほしい。
多種多様な人の数だけ価値観も多く存在するんだ。
相性が悪かった価値観と棲み分けして、新天地を探すのも一つの手段だと私は伝えたい。
船を降りた人に伝えたいこと
長々とした自分語りを読んで下さりありがとうございます。
船を辞めた人の多くが最後に労働環境の改善を求めるツイートをして辞職します。
だけど、船乗りの働き方改革に自分の大切な時間を使わないで欲しい。
変えようと努力している人達には申し訳ないのだが、今まで変わらずにいるから人手不足の現状に直面し、衰退しているのだから。
船の労働環境を変えるには自分の人生の多くを費やさないと変えるには難しい。
その代償を払って変えたいと思う信念があれば別です。
でも、多くの人はそうではないはず。
それならば労働環境を変えるより、自分自身が働く場所を変える、自分が心地よい職場に帰属した方が自分自身の幸せに繋がると私は思うんです。
だから決して、
過去に囚われ船の不満を終えるだけの人生だけは過ごして欲しくない。
船を去った人達が心機一転、活躍できる職場を見つけられることを祈っています。
おわりに
この文章では、まるで船乗りの方の印象を悪くしてしまうような書き方になってしまいましたが、大半の方が立派な方だと存じ上げております。また船を辞めた方にもそれぞれの理由があり、責任があることも重々承知しております。
このエントリが決して歪み合いの要因としてではなく、船を去った者達へのエール、ベテラン船員と新人船員の相互理解のために、はたまた願わくは、海運業界の更なる発展のために読まれることを心から切望します。本当にありがとうございました。
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